Peaceful day
早輝と軍平がスーパーの朝の10%引きセールで食料品をあれこれ買って帰ってくると、走輔の姿がなかった。
「あれ? 走輔は?」
「買い物っす」
買い物は今、自分と軍平が行ってきたばかりなのに?
早輝がちょっと首を傾げると範人が嬉しそうに近寄ってくる。
「買い物というより美羽とデートみたいだよ」
は? 走輔がデート?
「えー!!!」
早輝が驚くより先に軍平が大きな声を上げた。
「あの2人、そんな仲なのか」
連が、範人の肩をポンポンと叩きながら首を横に振る。
「デートじゃなくて買い物っすよ。もうすぐ走輔の妹さんの誕生日だから一緒に贈り物を選んでもらうんだそうっす」
「へえー。あいつ、そんないいところがあるんだな」
「でもさ、妹さんへのプレゼントなら私に頼んだっていいんじゃない?」
早輝は不満そうな顔をした。
「大人っぽいものをプレゼントしたいんだって。だから早輝じゃダメなんじゃない」
範人がニコニコしながらそう言うと、軍平が納得したように大きく頷く。
「確かに、それなら美羽に頼むのも納得できる。早輝と大人っぽさは対極にある」
「えー。その言い方ひどーい」
早輝は口を尖らせたが、すぐに、だけど、と小首を傾げた。
「デートじゃないって言っても、大翔さん、きっと淋しいよね」
「絶対イライラしてるよね」
「遅くならないといいっすけど」
「遅くなったりしたら、走輔の奴、ボコボコにされるかもしれないな」
走輔が大翔にボコボコにされている様子を想像し、4人はゾッとして思わず顔を見合わせた。
「ちょっと、走輔、痛いよ」
行き着けの店でシルバーのネックレスを見ていた美羽は急に走輔に腕を引っ張られた。
「どうしたのよ」
店を出たところでようやくその腕を払うと
「ダメダメダメダメ」
走輔はブンブンと首を横に振った。
「何が」
「無理無理無理」
「だから何が無理なのよ」
「値段だよ。値段。あんなの無理だって」
「そんなに高価なものばかりじゃないのよ。お手ごろのものだってあったでしょ」
「それでもダメだって。一桁違うんだよ!」
「一桁……?」
美羽は、完全に自分が誤解していたことを悟った。
いつもは欲しいものの金額なんて考えたことがない。いいものを買わなきゃ意味がないし。
いいものを見つける目には自信を持っている。
いいものを選ぶ。それだけだ。
だけど今日は違う。走輔が妹のために贈るプレゼントだ。
走輔が自分たちほど自由に使える予算がないのはわかっていたから、
いいもので買いやすい金額のものを勧めたつもりだった。
しかし、美羽の思う買いやすい金額というのは間違いだったらしい。
「予算、聞いていい?」
遠慮がちに訪ねる。
走輔は黙って財布を開いて見せた。
「……」
すぐには言葉が出てこない。
「……この金額で探すの?」
走輔は財布をパタッと閉じて、ハハハ、と乾いた声で笑った。
「やっぱり無理か? まあ無理だよな。だいたいガラじゃないしな」
値段が安くてもかわいらしいアクセサリがあることは知っている。そういうのを上手に身に付けてる女の子はいくらでもいる。
だが美羽は、そんな値段のものを買った経験はない。
たぶんこれなら早輝のほうがよっぽどいい店を知っている。
「おまえと大翔見てたら俺も妹になんかしてやりたくなったんだけど。俺にはちょっとまだ早かったかな」
「走輔……」
大翔はいつも美羽の誕生日には、何かしらプレゼントをしてくれる。
最近でこそ高価なものが多いけど、それはたまたま高価だっただけだ。
小さなころには、庭で見つけた四つ葉のクローバーだったこともある。
金額が問題じゃない。アニはいつも本当にいいものを私に贈ってくれる。
今年は妹に大人っぽいものを贈りたい。
走輔がそう思ってるな妥協せずに大人っぽいものを贈ってほしい。
「わかった」
美羽は走輔の顔を真っ直ぐに見て力強く頷いた。
「探そう」
「え……、だけど」
「絶対に見つけてみせるわ。その金額で本当にいいものを探すのよ!」
「走輔が付き合ってくれって言うから、いってくるね」
美羽がそう告げたのは今朝のことだ。
「デートか」
なんとなくソワソワしているように見えたので、軽く聞いてみると
「やだ、アニ。何言ってるのよ。買い物に付き合うだけよ。ご心配なく」
そう言って美羽は笑った。
別に、心配なんかはしていない。
美羽に心配をかけられたことはない。
「美羽に彼氏なんてできたら大変なことになっちゃうね」
以前そう言ったのは範人だった。
何を言ってるんだ、と思った。
大変なことになんてならない。
美羽の相手にふさわしい男が現れたら俺はちゃんと祝福する。
今はそんな男は現れてないだけだ。
「大翔いるー?」
「こんにちはー」
静かだった家の前が急に騒がしくなり、大翔はトレーニングの手を止めた。
ゴーオンジャーの走輔を除く4人が揃ってやってきたのだった。
「……何の騒ぎだ」
「早輝がクッキー作ったんだけど、上手にできたからおすそわけ!」
早輝のクッキーって……。早輝は味音痴で、どんなものでも甘くしてしまうと誰か言ってなかったか。
「いや、俺は甘いものは……」
「あ、やっぱり。大翔さんは甘いのは嫌いかなーと思って甘さ控えめにしてみたの。甘いものが苦手な軍平もおいしいって言ってくれたから食べてみて」
いや別に俺は甘いものが嫌いなわけじゃなくて、極端に非常識に甘いものが嫌いなだけだ。それは誰だってそうだろう。
「大翔、大丈夫だ。これは普通においしかったから」
心配を察したのか軍平は大翔の顔を見て深く頷いた。
「だから、ね! 食べてみて!」
「あの、入っていいっすか?」
連は少し遠慮がちに後ろのほうに立っていたが、範人と早輝は既に入りかけている。
大翔はしぶしぶ頷いた。
「ああ!やっぱりこのお家は素敵だなー」
早輝は持っていた包みをテーブルの上に置いて、部屋の中をくるりと見回すと、にっこり笑った。
「この間美羽にごちそうしてもらった紅茶がおいしくて、このクッキーには絶対合うと思ったの。飲ませてもらっていい?」
「ああ、だが美羽は今……」
「この間来たばかりだから、どこにあるかわかってるから平気。キッチン貸してね」
名前の通り輝くような笑顔で微笑まれると頷くしかない。
「連も手伝って」
「あ、いいッスか。勝手に使っちゃって」
連が伺うように聞くので、ため息を付きながら頷く。
やれやれ。
「で、なんなんだ」
範人はいつの間にか勝手にサンドバッグを叩いていたので、大翔はたった一人残った軍平に訊ねた。
「え?」
「なんの用があって来たんだ」
「用は、だから早輝がクッキーを大翔に食べさせたいって言うから」
「それだけか?」
「あ、ああ」
頷く軍平の目が泳いだ。嘘のつけない奴だ。
クッキー云々というのは口実だろう。
「おまえ、体力あるな」
さんざん歩き回って美羽の許可の下りたペンダントを見つけた頃には
走輔はもういいかげ疲れてん飽き飽きして、どれでもいいじゃないかという気になっていた。
「走輔、疲れちゃったの? ゴーオンレッドのくせに」
「は? ばーか。疲れてなんかねえよ! だけどさ。買い物って、闘うのとは違う体力使うよな」
「そうかもね。でも、楽しかった。行ったことのないお店、いっぱい見て回れたし」
美羽は全然飽きても疲れてもいないように見えた。
セレブ御用達じゃない場所に行ったのが本当に楽しかったのかもしれない。
「ちゃんと成果もあったし。ね」
美羽の選んだペンダントが他のものとどう違うのか、正直に言えば走輔にはよくわからなかった。
だが、アクセサリーというものが世界には物凄くたくさんあるのだということはよくわかった。
その中からたった一つを選ぶなんて芸当は自分だけでは絶対無理だったことは間違いない。
「ああ、今日はほっんとーにありがとな」
「妹さんに気に入ってもらえるといいけど」
「あたりまえだろ! 気に入らないなんて言わせないぜ」
美羽は走輔を見て誇らしげに、ふふふ、と微笑んだ。
「選んでもらったお礼に……」
周りをぐるりと見回すと、たいやき、という文字が目に入る。
「あ! たいやき」
美羽も同時に呟いた。
「食ってくか? これぐらいなら俺にも奢れるぜ」
「ほんとに? あ、でも……」
美羽が急に足を止めた。
「どうした?」
「アニにもお土産買って行こうかと……」
こいつは、本当に片時も兄のことを忘れることがないのだ。そう思うとちょっと感心する。
「わかった。それなら俺が大翔にも庶民の味を教えてやるよ」
「いいの?」
「まかせとけ!」
「それじゃ、私、おいしいお茶入れるから家で食べようよ!」
大翔と美羽と俺が3人でたいやき食いながらお茶をすする、ってのはなんだか妙な感じもするけど、ま、いいか。
「よし! おばちゃん、たいやき3つ!」
走輔は、力強く叫んだ。
確かに今日の早輝のクッキーは美味しかったし、紅茶も美羽が入れるのと変わらないぐらい良い味に入っていたと思う。
それはいいが、クッキーも食べ終わり紅茶も飲み終わり、後片付けまできれいに終わったというのに、4人はまだ帰る様子はなかった。
「で、おまえたちはいつまでここにいるんだ」
明らかに手持ち無沙汰な様子の4人に大翔は聞いてみる。
「いつって……。たまにここでのんびりさせてもらってもいいだろ」
「そうだよ。こういうソファとかにも座ってみたいし」
「美羽の生けたお花も眺めてみたいし」
あまりにもわざとらしい答えに笑ってしまう。
「そろそろ走輔がギンジロー号に戻ってるんじゃないのか?」
「戻ってるかもしれないけど、こっちに来るかもしれないしな」
「ふーん。そうか」
軍平の顔をじっと見据えてみたら、軍平のほうが視線をそらした。
やはりこの男は嘘が付けない。
この答えこそが本音なんだろう。
こいつらが何を考えてここに来たのかはだいたいわかっている。
万が一美羽と走輔が一緒にここへ帰って来た時、俺がどんな反応を示すかが心配なのだ。
別に手荒なことなんてするわけがないんだが。
その時玄関でガチャガチャと音がした。
「あ、美羽が帰ってきたんじゃない?」
「ほんとだ」
みんなが、わらわらと玄関へ出迎えに行くのをリビングで見送る。
「美羽、おかえり!」
「あれー。みんな来てたの?」
「なんだ、おまえら、どうしたんだよ」
「どうしよ。走輔、足りなかったね」
声を聞く限り、どうやら走輔も一緒に帰ってきたらしい。
それで、俺はどうすればいいんだ。
もともとどうする気もなかったが、
ゴーオンジャーの期待に応えて、ここで走輔を一発ぶん殴ってでもみたほうがいいだろうか。
椅子に深く腰掛けたまま、大翔は腕を組んでしばし考えてみる。
初めて書いたゴーオンの話。
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