祈り
あの時、タイムブルーがあまり簡単に頭を下げたので少々面食らった。
タイムブルーのことはよくは知らない。
ふだんは浅見やタイムピンクの一歩後ろに立っている。冷静そうに見える。
それでいてタイムレンジャーの中で一番最初にロンダーズに突っ込んで行くのはこいつだ。
そしてかなり高い確率であっという間にやられている。勝算があって突っ込んでいるわけではないらしい。
馬鹿なのか利口なのかよくわからない。
だがきっとこの男は浅見に比べればよほど世の中を知っていているのだろう。
力を持たないものは時に力のある者に頭を下げなければ目的を果たせない。
それを知っている。
だからこんなふうにあっさり頭を下げることができる。
ちょっと面白くなって少しだけ煽ってみた。
「あんたからも浅見に言ってやったらどうだ。やっぱり力は必要だろ、ってな」
「確かにな」
タイムブルーは静かに頷いて、穏やかな表情で顔を上げた。
「でも、それだけじゃ生きられない」
その口調があまりにもきっぱりと確信に満ちていたので、俺はしばしその場で立ち止まった。
それを浅見が言ったのなら、俺は鼻で笑って軽蔑しただろう。
浅見竜也は浅見の一人息子として生まれた時点で既に力を手に入れている。
あいつが力を軽んじるのは、それが生まれながらに与えられていたものだからだ。
力の恩恵を目いっぱい受けて生きてきた男は、それがどれほど大事なものかをわかっていない。
力だけじゃ生きられない。
そんなのは既に力を持っている者が語るような言い様だ。
力がなくて頭を下げて助けを求めに来たこの男の口から出る言葉とは思えなかった。
咳き込んだ拍子に吐き出されたのは鮮血だった。
その瞬間ゾクリと寒気がして、死が近づいた気がした。
死というのはこんなふうに人に近づいてくるものだったのだ。
それは身体の内部から襲ってくる。俺の身体を侵食する。そういうものであったのだ。
初めて知った。
今までだってずっと危険の中にいた。
ブイレックスごと吹っ飛ばされて、ロンダーズにやられて、砲火を浴びながらこの救護所の寝台に辿り着いた。
浅見に助けられなければ間違いなく死んでいただろう。
だが、そんな危険の中にいても俺はこれまでは死から遠いところにいたのだ。
今は違う。今わかった。死は既に俺の中にいる。
あの男はきっと、こんなふうに死に近寄られたことがあったに違いない。
治らない病気であとわずかの命だと言われた男がなぜ1000年も前の世界にやって来たのか。
なぜ危険を顧みず闘い続けたのか。
その理由を聞く機会はおそらく、もうない。
「生き方は変えられるはずだ」
浅見はそう言ってロンダーズと闘うために出て行った。
俺はどうするのか。
俺は死ぬのか。
それとも生きられるのか。
いずれ死ぬのだとしてもまだ生きている。まだ死んではいない。
「力は裏切るわ」
俺を助けたタイムピンクは言った。
「2度と裏切らせない」
あの時そう答えた俺だが、結局また裏切られている。
その結果に笑ってしまう。
ずっと力を追い続けて生きてきた。
今までの自分の生き方を後悔なんてしていない。
だが、
たぶん俺はもう……
「それだけじゃ生きられない」
あの時俺を見上げたタイムブルーの顔がよみがえる。
そうだな。
あの男は正しかったのかもしれない。
確かに俺も、もう
それだけでは生きられない。
不意に気配を感じた。
誰かの。
目を開けるとさっき助けた少女が佇んでいた。
「助けてくれてありがとう」
「鳥、戻ってこないのか」
空っぽの鳥かごに目をやると、少女は不安そうに頷く。
あの時、トラとサクラをもらってくれた子も、ちょうどこれぐらいの歳格好だった。
小さな鳥を2羽も抱えたあの子はこの混乱の中で無事でいるだろうか。
「あ!」
少女の顔が、突然輝いた。
窓辺に一羽の鳥が来てさえずっている。
ああ、そうか。
その瞬間、俺は自分が何をしたいのか理解した。
ずっと力を求めていた。自分を律して必死で生きてきたのは力を手に入れるためだった。
だが、
それだけで生きてきたわけではなかった。
無理矢理起き上がって点滴を引きちぎる。
「貸して」
少女に手を差し出した。
力を追う以外の生き方はずっと俺の隣にあったのだ。
リク内容とちょっと違うなあ。アヤセあまり出てこないし。すみません……。
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