隣にはいつも

 

射撃練習場に来ると、こんなに遅い時間にもかかわらず先客がいた。
練習をしようと思って来たのだけれど、しばし後ろに座ってホージーの練習風景を見学する。
私が来たことには気づいているのだろうけど、そんなことで気を散らすこともない。
弾丸がことごとく標的に命中する様は見ていて心地よい。
ホージーは、地球署に同期の新人として赴任した時から射撃が得意だったけれども、ここまで完璧ではなかった。
どんな日でも欠かさず訓練することは、言葉でいうほど簡単ではない。
どんなに体調が悪くてもどんなに精神的ダメージを受けていても訓練することによって、 どんなに体調が悪い時でもどんなに精神的ダメージを 受けている時でもパーフェクトに射撃が出来る実力を身につけられる。
こういう地道な訓練こそが彼を今の彼たらしめている。
今年に入ってから彼はいくつもシビアな状況に直面したけれども、おそらくこの場所で いつもと同じように標的を打ち抜くことによって、冷静さを取り戻し平常心を取り戻し自信を取り戻して、 乗り越えてきたのだろう。
そんな彼をちょっと羨ましいと思ってしまう。
自分の努力の結果身につけた確かな技術があって、それを自分の目で確かめられる世界を持っていることが、羨ましい。

ホージーが自分自身の力でさんざん努力した結果手に入れた世界を、ただ羨むなんて愚かなことだ。
だけど私には自信の持てる世界というものがない。
デカレンジャーとして地球署に赴任して、周りに引っ張ってもらっていろいろ頑張ってきた気でいるけど、 目に見える結果というものはないから。
だから、こんな時にこんなふうに落ちてしまった自分の気持ちをどうやって浮上させればいいのかがよくわからない。

ギョクさんが元気だったことがわかって嬉しかった。ずっと抱えていた心の中の石がなくなった。
だけど、それ以上にそのギョクさんの教えを守れなかった自分が不甲斐ない。 同じ失敗を何度も繰り返している自分が、無性に悔しい。




「It's perfect」
訓練を終えたホージーに声を掛ければ、彼は初めて私の顔を見た。
「こんな時間に何やってるんだ」
「そりゃもちろん自主練習。のつもりで来たけれど、ホージーの射撃に見惚れてた」
今度こそ私も訓練するために立ち上がる。
「ほどほどにしろよ。あまり遅くなると明日に差支えるぞ」
「ロジャ」
ホージー自身だってこんな時間まで訓練してたくせに何言ってるんだと思うけれど、一応逆らわず返事をしておく。

「ジャスミン」
いったん帰りかけたホージーが、立ち止まって振り返る。
「ん?」
「大丈夫か」
「へ?」
改めてホージーの顔を見ると、彼は眉間に皺をよせて困ったような顔をしていた。
「情けない顔してるぞ」
「あれま」
確かに情けない気分なんだけど、それが表情に出てしまっているのか。 ふだん気分が表情に出ないほうなんだけど。
遅い時間だったから疲れて気が緩んでいるのかもしれない。
ホージーの射撃練習を見ていたら、ホージーがパーフェクトな結果を出しながら、 その実、私と同じように情けない気分でいることも感じとってしまったし。
「だいじょうぶぃ」
と言ってみたら、ホージーの眉間の皺がますます深まったような気がして、申し訳ないと思う。


ホージーと私は以前はずっとコンビを組んでいたけれど、必ずしもいい組み合わせというわけではなかった。
思考パターンが似ているから、うまく歯車が回ればお互いの考えていることを察して素早く行動することができて いい結果に繋げられるのだけれど、 思考パターンが似ているということは、同じ過ちに陥りやすいということでもある。
私は周りからは冷静そうに見られがちだが実は全然冷静な人間ではなくて、どちらかと言うと 感情的になって突っ走る傾向がある。
自分でもわかっている。わかっているからこそいつも平常心を保ってクールでいようと心がけていた。

たぶん彼もそれは同じ。
ホージーは本来は全然クールなんかじゃなくて、情が深くて熱い人だ。
だけど仕事において彼は私よりずっと自分の気持ちを制御できていて、それだけじゃなくて私が 暴走したら自分が止めるぐらいの気持ちを持って一緒に動いていてくれていたのだ。
そのことを私は知っている。

それなのに……。
クールでいられなくてごめん。
クールでいさせてあげられなくてごめん。



「だいじょうぶだけど、ちょっと今日のことを反省してた」
少し本音を漏らしてみたら、彼の表情が少し和らいだように見える。
「何度も同じような失敗をするのは如何なものかと思ったわけよ」
「そんなこと」
「……」
「次は失敗しないようにするしかないだろう」
「うん」
私は頷く。
「だけどそう思っていてもまた同じトラップに嵌ってしまうのよ」
「その都度どこが悪かったか考えて、何度も失敗するなら何度も修正するしかない」
彼は、私にと言うより自分自身に言い聞かせるように答える。
「少なくとも射撃ではそうだ」

この人はいつも確かな道を私に示してくれる。
バンのような突飛な驚くようなアイディアではなくて、私もよく知っているはずの正解を、 だけど忘れてしまいそうな正解を思い出させてくれる。

「えーっと」
「なんだ」
「駄目だ。四字熟語でなんて言うのか思いつかないわ」
「……馬鹿」
ホージーは呆れた顔で溜息をつくと、踵を返した。
「ホージー」
この人はもう今回のような失敗はしないだろう。
私だってもうこんな失敗はしない。 彼も私もその都度失敗を修正しながら前へ進んでいくのだ。 今日はやり切れない情けない想いでいても、明日からはまた失敗の許されない世界へ戻っていくのだ。 バンのようにはなれなくても、地球は私たちが守っていくのだ。

「ありがと」
「礼なんて言うな」
「ごめん」
「謝るな」
何を言っても怒られるのがなんだか可笑しい。
「……ホージー、うるさい」
笑ってしまう。
ホージーも、私につられたように初めて小さく笑った。





 

 


Episode47の後です。
もしイメージを壊してしまったら、本当にすみません。
恋愛関係はないけれど信頼関係がある男女の会話というのが好きです。

 

 

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