Blue in the blue

 

あの日は天気がよく路面の状態もよく、初めて乗った新しい車の調子もよかった。
絶好のコンディションだったのであれぐらいのスピードを出しても行けると思ったのだが、結果的には行けなかった。 カーブを曲がりきれなくてフェンスに激突した時に最も驚いたのは俺自身だったのかもしれない。
路面もフェンスもヘルメットもスーツも、ドライバーの身を保護するための安全を考えて作られているので、かなりのスピードで 激突してもドライバーにはダメージは少ない。 怪我をしたわけでもなく、いつもと同じ程度に冷静に現状を把握しているつもりだったので、やれやれ、と 車の中でシートベルトを外した。
後になって考えれば冷静ではなかった。
後ろから来た車が同じようにカーブを曲がりきれず、こっちの車に激突してくるのに気づかなかった。
追突され、あっという間に車の中から投げ出され、仰向けに体が吹っ飛んだ。
落ちるときに青い空が見えた。
綺麗だ。
雲ひとつない。
こんなにいい天気なのにどこでしくじったんだろうか。その原因を分析する間もなく、当然姿勢を立て直す間もなく、 頭だけは打ちたくないと思った途端に地面に叩きつけられた。
一瞬目の前が真っ暗になり、次の瞬間猛烈な痛みに襲われた。意識がはっきりしているということは頭を打っていないということ なのでよかったと言えるが、同時に痛みのすべてを記憶しなければならないということだ。足を動かそうとしたらさらに激痛が 走った。足か腰の骨が折れているのだろう。
参った。
復帰するまでにどれぐらい時間がかかるだろうか。
少しでも身体を動かすと痛いので、黙って雲ひとつない青空を見てるしかない。




ロンダーズ囚人エスクドが投げた手榴弾の余波で俺は一気に吹き飛ばされた。
まるであの時みたい仰向けに吹っ飛んだので、あの時と同じように落ちる時に青い空が見えた。
20世紀の空も、30世紀と同じ色をしている。
あの時は結局復帰まで5か月かかった。いま同じように5か月も休むことになったらどうなるのだろう。 タイムレンジャーは4人でも戦えるが、ボルテックバズーカを使うためには5人必要だ。もし1人足りなくなったら、 ユウリならきっと俺の代わりに20世紀人の中から誰か使えそうなのをスカウトするだろう。20世紀人がタイムレンジャーに なってもまったく問題がないことは竜也が証明してくれた。竜也の友人で信用できそうな奴を選んでタイムブルーに仕立てれば いいのだ。
落ちながら一瞬そんなことを考えたが、今日はあの時とは違う。
クロノスーツを着用している。
生身だったら地面に叩きつけられて骨の何本かは折れていそうな体勢だったのを簡単に空中で立て直し、一回転して難なく着地した。
クロノスーツはたいしたものだ。生身なら不可能なことが簡単に可能になる。

竜也とドモンが2人でエスクドに斬りかかっていたので加勢しようと思ったが、目の前に大勢ゼニットがいて近づけない。
とりあえず近くにいたゼニット一体を蹴り飛ばしたら思い切り遠くまで飛んでいった。この程度の奴にこんなに力を入れて蹴る 必要はなかったのだと気づく。と思ったら次のゼニットは意外に手強くちょっと蹴ったぐらいでは吹っ飛んでくれない。 ゼニットはどれもみな同じように見えるが実はそうではなく一体ごとに性能がかなり違う。違いを見極めるポイントでも あればいいのだが、そんなポイントは知らないから、その都度対処しながら一体ずつ地道に片付けていくしかない。
ゼニットを片付けつつ、竜也たちのほうを見ると、エスクドが手榴弾をかざしているのが見えた。
投げようとしている方向では、ユウリがゼニット相手に戦っていた。
さっき余波を浴びただけであれだけ吹っ飛ばされたのだから、命中したらたまったものではない。
「ユウリ、後ろ!」
俺の声にユウリが後ろを振り向いた瞬間、行く手を遮っていたゼニットたちの間に道が見えた。
ここだ。
これまでゼニットに遮られエスクドに近づけなかったのに、おもしろいようにどこを進めばいいのかがわかる。
俺はするするとゼニットの間を走った。
途中でゼニットに後ろから切りつけられたらしく背中に鋭い痛みを感じ、つんのめりながらエスクドの腕にしがみ付いた。 まったくクロノスーツがなかったら命が幾つあっても足りない。
エスクドは力が強く俺をぶらさげたまま腕をぶんぶん振り回したが、竜也が腕に飛びつき、ドモンがダブルベクターで斬り付け、 やっと動きが鈍くなった。
「アヤセさん!」
シオンの声が聞こえたので、 俺は目の端でシオンの位置を確認し、エスクドの腕を蹴り上げた。
手榴弾が宙を舞う。
とんでもないところで爆発してしまったら大変な事態になるところだが、シオンが素早く落下点へ駆け寄り、 爆発する前に両手で受け止めた。




「いいお天気ですね〜」
シオンはスーバーの袋をブラブラ揺らした。
「おい、卵が入ってんだから、あまり振るな」
シオンはへへッと笑って袋を揺らすのをやめて、俺の顔を見た。
「アヤセさん、クロノスーツって凄いですね」
「ああ、凄いな」
俺も実感していた。
きのう、大勢いたゼニットの間に突然道が見えて、どこを進めばエスクドに近づけるのかがわかった。
シオンがエスクドに隙ができたことに気づいて 俺の名前を呼び、俺はその声を聞いただけでどうすべきか理解し、 手榴弾の落下地点を判断してシオンが走りこむという連係プレーができた。
「もっと使いこなせるようになったら、きっともっといろんなことができるな」
「はい。僕もそう思ったんです」
シオンは頭がいいし運動神経もいいから、戦闘に慣れてクロノスーツを更に使いこなせるようになれば、 この先どんどん強くなるに違いない。
「僕がんばります!」
シオンは心底楽しそうな顔をしている。
俺もきっと同じような顔をしているのだろう。
おかしなものだ。30世紀にいた頃はあんな不自由な過去の遺物を好んで乗り回していたのに、20世紀にいる今は、30世紀に いる時にすら見たこともない最先端の装備を使っている。
まあ、どっちも使いこなしがいがあるという点では、似たようなものだ。
「お天気がいいと、なんだか嬉しくなりますね〜」
シオンはいつだって嬉しそうにしているじゃないか。
「雲がひとつもありませんね」
シオンの声につられて空を見上げた。
本当に、雲がひとつもない青空が広がっていた。



 

 


アヤセはいつも一番先に突っ込んでいくんですが、けっこうやられてるので、昔から怪我の多い人だろうと思うのです。

 

 

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