記念写真はお気に入りのドレスで

 

ドモンさんたちが30世紀から来ていずれそこへ帰らなければならないという話はショックだった。
最初は信じられなくて、嘘でしょう、って感じだったけど、言いにくそうに話すから本当なんだってわかった。 驚いたけど、この話をしなければならないドモンさんが私以上に辛そうだったからできるだけ明るい声を出そうとした。
「それなら帰っちゃう日までは思いっきり楽しく過ごそうね」
ドモンさんがほっとした顔をしたので嬉しかった。
あれは私の本心だ。
もちろん、ずっとずっと一緒にいられるのならそのほうがいい。 やっとお互いの気持ちがわかったのに離ればなれになっちゃうなんて嫌だ。
だけど、それよりも会えてよかったという気持ちのほうが強い。だってこんなに短い期間の間に出会えたのは凄い偶然だよ。 ドモンさんは私に会うために30世紀から来たのかもしれない、なんて思ったりして。


きょうは仕事が入っていないので洗濯を終えた後近所のスーパーで買い物をした。 タイムレンジャーの写真を撮るのをやめてから仕事が減ってしまった。もっと営業活動しないとまずいなあとは思っているけど、 今は仕事はできるだけ減らしてドモンさんと一緒にいられる時間を大切にしたいとも思う。 と言っても彼も予定が立ちにくいお仕事だから、なかなか会えないんだよね。
スーパーの袋を下げて、のんびり歩いていたら地響きのようなものを感じた。
あれ、地震?
違うみたい。
「ロンダーズだ!」
誰かが叫んだ。人々が向こうから一斉に逃げてくる。
え、うそっ。
「ロンダーズなんですか!」
逃げてくる人を捕まえて聞く。
「そう!そう!早く逃げた方がいい」
そう言ってさっさと走り去ってしまったから、他の人に聞く。
「タイムレンジャーは来てるんですか!」
「タイムレンジャーはいなかった。シティガーディアンズが来てたよ」
もうタイムレンジャーは撮らないと決めていた。だからロンダ−ズも撮らない。 だけどシティガーディアンズは?
とにかく行ってみよう。カメラはいつも持ち歩いているから今も持っているけど、撮るかどうかは別にして、 とにかく現場に行ってみよう。 もしタイムレンジャーが来ても絶対に邪魔したりしないから。


現場から人々を避難させているシティガーディアンズの人たちに見つからないようにビルの陰からこっそり覗いてみると、 ロンダ−ズの囚人とシティガーディアンズが睨み合っているところだった。
ロンダ−ズと言ってもそう怖そうには見えない。遠くてよく見えないけど、痩せていて普通の人間とあまり変わらないみたい。 ただ耳がとっても大きい。
シティガーディアンズの制服の人たちの中から、ベレー帽を被っている一際背の高い人が一歩前に出た。 スラリとしていて、かなりカッコいい。
その人はおもむろにベレー帽を放り投げた。
「タイムファイヤ−!」
えーっ! あの人が、タイムファイヤ−なの!
か、かっこいい……。 びっくり。ドモンさん以上、とは言わないけどかなりかっこいいよ。撮りたい。
ロンダ−ズの囚人の手から何か炎のようなものが出たけど、タイムファイヤ−が腰から銃を出してすぐに撃ち返した。
ああ、撮りたいけど、駄目だよね。やっぱまずいよね。もう逃げなきゃ。
あ、タイムピンク。
いつの間にかタイムピンクが来ていた。ゼニットと戦っている。
他の人たちは? ドモンさんは?
そのうちにロンダ−ズの囚人が何かを叫び、ゼニットと戦っていたタイムピンクの足元目がけて炎を飛ばした。 危ない!タイムピンクが蹲る。
そして次の瞬間、ロンダ−ズの囚人とゼニットたちが消えた。
タイムピンクってユウリさんだよね。怪我したんじゃないかな。
私はもう少し近寄ってみる。
蹲っていたタイムピンクはすぐに立ち上がった。装着は解かないままだ。タイムファイヤ−が装着を解いて、人の姿に戻った。
あ、やっぱり中身もカッコいい。この人がタイムファイヤ−なのね。見惚れちゃう。
なんてことを言っている場合じゃない。ユウリさん、大丈夫かな。
「怪我しただろ。大丈夫か」
装着を解いたタイムファイヤ−が聞く。
「たいしたことないわ」
ユウリさんが答える。
「浅見たちは一緒じゃないのか」
「他の場所でもロンダ−ズが現れたっていう情報があったからそっちへ行ったの」
タイムファイヤーは、ユウリさんの足をじっと見ている。
「スーツの下はけっこう酷いことになっているような気もするが」
「ありがとう。でも本当にたいしたことないから気にしないで」
ああ、もう、たいしたことあるんじゃないの。
「ユウリさん、大丈夫ですか!」
私は思わず2人の前に走り出る。
「あなたは、ホナミさん?……」
ユウリさんが驚いた様子で私を見た。
「うち、この近くなんです。ユウリさんも知ってるでしょ。偶然通りかかってもう、びっくり」
タイムファイヤ−が私とユウリさんにそれぞれ目を向ける。
「うちで手当てして行って。薬はなんでも揃ってるから」
タイムファイヤーは私たちから離れ、踵を返した。待っていた様子のシティガーディアンズの車に乗り込む。
車が行ってしまうと、ユウリさんは足を引きずりながらビルの陰へ移動した。タイムピンクの装着が解ける。 その途端にユウリさんの顔が歪んだ。
「痛そう」
私は屈んで、ユウリさんの右足の傷を見る。しっかり火傷している。
その時、聞き覚えのある音がした。この音はクロノチェンジャーだ。ドモンさんも持っているから知っている。 ユウリさんがドキッとした様子で私を見たので、私は頷いた。 ユウリさんはそれでも私の目を避けるようにしてクロノチェンジャーを顔に近づける。
「ユウリ、こっちにはロンダ−ズはいない。そっちは?!」
かすかに声が聞こえる。この声は竜也さんだな。
「逃げられたわ」
ドモンさんも竜也さんと一緒にいるのかなあ、などと思いながら二人の会話を聞いた。



大丈夫だというユウリさんを無理やり自分の家へ連れてきた。
この家にはユウリさんも来たことがある。ロンダ−ズに襲われた後送り届けてくれたから。 あの時だけじゃないけどずいぶん助けてもらったから、たまには私も何かしてあげられたらいいな、と思っていたので少し嬉しい。 引っ叩かれたこともあるけど、あれは私が悪かったんだし。
「何でもあるのね」
私の薬箱を見たユウリさんが呟くように言った。
「へへへ、タイムレンジャーのお仕事って危険でしょ。ドモンさんがどんな怪我しても大丈夫なようにいろいろ揃えちゃった」
私の笑いに釣られたのかユウリさんも少し微笑んだ。
「揃えてはみたものの実際に使ったことは殆どないの。ドモンさんが戦闘の後でここに来ることはないし、 だいたい凄く強くいから怪我しないでしょ」
「そうね。ドモンは滅多に怪我しないわ」
「あ、ユウリさんが強くないっていうわけじゃないのよ。あんなハードな戦いしてたら怪我ぐらいするのが普通だよね」
「わかってる。ドモンはちょっと特別」
ユウリさんは私と顔を見合わせて笑った。
ああ、やっぱりユウリさんって笑うととっても可愛らしいんだよね。ふだんもクールで綺麗だけど、笑うと更に素敵。
竜也さんとユウリさんはお互いに気があるんだってドモンさんは言ってた。 だけどふたりとも素直にそれを認めることができないでいるからじれったいって。 本当に竜也さんとユウリさんがそういう感じなら、そんな悠長なことしてる時間はないんじゃないかなあ。 だからドモンさんも早く2人をくっつけないと、って言ってたけど、こういうのって難しいんだよね。 周りがやみくもにくっつけようとするとかえってうまくいかなかったりするし。
「はい、おしまい」
傷の手当てが終わるとユウリさんはさっさと立ち上がろうとした。
「ありがとう。助かったわ」
「今、お茶入れるから」
「お世話になったのに申し訳ないんだけど、さっきのロンダ−ズがまた姿を見せるかもしれないからきょうは帰らせてもらうわ」
そう言ってユウリさんは立ち上がる。
「あの、あのね」
私は慌てて引き止める。
「今度ユウリさんの写真撮らせてもらっていいかな」
「私の写真? 何のために」
怪訝そうな顔をする。
「ユウリさんもドモンさんたちもいずれ30世紀へ帰っちゃうんでしょう。 だったら帰った後、私とか竜也さんとかきっと淋しくなっちゃうと思うの。でも写真があれば思い出せるでしょ」
ユウリさんが黙って私を見つめる。
「もし竜也さんが、写真なんか見ると思い出しちゃってかえって淋しくなるから嫌だって言ったら見せないけど」
「ホナミさんは、写真があって思い出せたほうがいいの?」
じっと目を見て聞かれる。
「私は思い出せた方がいい。忘れたくないから。ドモンさんと出会ったことを」
ユウリさんは暫く私の目を見ていたが、やがて目を伏せる。
「ごめんなさい。きょうは本当に帰らないと」
「じゃあ、また今度、時間がある時に。いいでしょう」
「ええ、それはいいけど」
「それまでに幾つかお洋服用意しておく。ユウリさん、そういう格好も似合うけど、もっと他のお洋服も似合うと思うの。 ユウリさんは20世紀のお洋服で着てみたいものはない?」
「洋服?」
ユウリさんって近くで見ると本当に綺麗なんだ。 もっといろいろなお洋服でいろいろな表情してもらっていろいろな写真撮ってみたくなっちゃった。 カメラマン魂が燃えてきたっていうか。
だけど今はそれより竜也さんのことを考えなくっちゃね。 竜也さんが好む格好をしてもらうのがいいんだけど、竜也さんはどんなのが好きなのかなあ。ドモンさんに聞いてもらっておかなくちゃ。
「私は別に着てみたい洋服というのはないから」
ユウリさんはそう言いながら玄関の方へ移動して行く。
「遠慮しなくても平気だよ。私はあまりお洋服持っていないけど友達からかき集めて用意できるから」
「あの、別に遠慮しているわけではなくて……」
「ユウリさんはサイズも普通ぐらいだから用意しやすい。あ、今ちょっとだけファッション雑誌見ていかない?  参考になると思うから」
「ごめんなさい、本当にもう帰らないと」
ユウリさんはブーツに足を入れる。
「あ、じゃあじゃあ、今度トゥモローリサーチに行ってもいいですか。普通に生活しているところの写真も撮りたいの。 お仕事の邪魔はしないし、もちろん絶対に雑誌に売り込んだりしないから」
そう本当にほしいのはそんな写真だ。ドモンさんたちの日常の写真。たぶんそれは私だけの気持ちじゃない。
「竜也さんも…」
ユウリさんは玄関のドアノブに手を掛けていたが顔を上げた。私はそれを確かめて続ける。
「竜也さんもそういう写真欲しいと思うの」




どういうことなんだろう。
どうして写真を撮るのに、いろいろな洋服を着なければならないのか。 ホナミの言動は、ユウリにはいま一つ理解できない。
だが彼女が親切な人だというのはわかる。以前引っ叩いてしまったこともあるのに、 そんなことを気にする様子も見せず傷の手当てをしてくれた。 ドモンが使うことは殆どないと言いながら傷薬や包帯を取り揃えていた。 気持ちが優しくて明るくて、ドモンとはお似合いだと思う。 いずれ30世紀に帰ってしまうことがわかってもドモンを想う気持ちを大事にしている。 彼女は自分の気持ちに率直なんだろう。

私は……。
私はどうしたいんだろう。 ロンダ−ズを全員逮捕する。ドルネロを逮捕する。 そしてその後は……。
私は30世紀へ帰るだろう。 その時竜也は、もちろん20世紀に、この時代に残るのだ。

クロノチェンジャーが音を立てる。
「ユウリ、ロンダ−ズだ!」
「場所は?」
静かな住宅街なので少し周りを気にしながら答えた。 話しながら走り始めると、その拍子にズキリとさっきの傷が痛んで思わず顔が歪んだ。
だが少しの痛みを気にしている余裕はない。少しぐらい痛くても動いていればそのうちに慣れる。
「了解。すぐに行くわ」
クロノチェンジャーの通信を切り、更に足を速める。
あとのことは、あとで考えよう。今はまだやることがある。
そう思う。






 

 

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