かざした手のひら

 

東京の様子はすっかり変わってしまったのに、 都内を抜けて朝霧山へ近づくにつれて周囲は懐かしい風景へ戻っていった。
「このあたりは、大消滅やら何やらの被害も受けてないから、あまり変わってないんじゃないか」
助手席からも、思っていたのと同じことを言われる。
「そうだね」
朝霧山はあの頃と変わっていない。

昔、お父さんとお母さんと一緒に宝石を埋めた。
便利屋さんと一緒に来た時は、ロンダーズに襲われた。
この場所に来るのはその時以来だから、もう二十年近い年月が流れたのだ。

あの時便利屋さんに手を引かれて逃げ出したのがどのあたりだったのかよく覚えていないけれど、 なんとなくこの辺りかと思える場所に車を停めた。
景色は変わっていないのに、とても大きかったはずの川や山が、今はそれほど大きく見えない。
「あんなところにお地蔵様がある」
彼の指差す先を見れば、お地蔵様が立っていた。
「あそこに、宝石を埋めたの。お父さんとお母さんと。まあ、石だけどね」
近寄ってみれば、お地蔵様も小さくなったような気がした。
しゃがんで、土を撫でてみる。
ロンダーズに追われて来た時に掘り起こしたから、ここにはもう何も埋まってはいない。

……あの時、お父さんと私と便利屋さんを守ってくれて、ありがとうございます。
お地蔵様に手を合わせた。




あの時の便利屋さんはタイムレンジャーだったんだろう、ってお父さんが言ってた。
たぶんそうなんだろう。

あの後、便利屋さんに似てる人を何度か見かけたけど、どの人も別人だった。
お父さんもあの時は慌ててたから顔とか全然覚えていなくて、 名前ぐらい聞いておけばよかったね、と2人で後悔した。
今では便利屋さんがどんな顔をしていたのか すっかり忘れてしまった。

便利屋さんが青い色のタイムレンジャーになった姿はなんとなく覚えている。
物凄く必死に私を助けるために闘ってくれて、どうしてそんな話になったのかは忘れてしまったけど私の腕を掴んで
「人は死んでも大切な人のそばにずっといるんだ」
そう言ってくれた。
だからお母さんは私のそばにずっといる。
あの言葉は忘れない。

そうそう。私ったら「大人になったらお嫁さんになってあげてもいいわ」なんて言ったのだ。
なってあげてもいいなんて、偉そうで笑っちゃう。
今ならそんな台詞絶対言えないけど、子どもの頃の私は凄く強気だった。

だけど、もう私は便利屋さんのお嫁さんになってあげることはできない。
……便利屋さん、ごめんなさい。
なんて謝るのも変だけど。だいたい便利屋さんだってとっくにお嫁さんぐらいもらってると思うけど。





「そんな綺麗な石はなかなか見つかりそうにないな」
彼はいつの間にか水辺で石を探し始めてた。
「石なら」
私は左手を振る。
「ここに綺麗なのがあるよ!」
薬指に輝いてる石は、つい一週間ほど前に彼にもらったばかりのものだ。
もうすぐ彼と結婚する。

私は彼の脇まで駆けて行った。
「ほら」
空に向かって左の手のひらをかざす。
「綺麗でしょ」
「ああ、そうだな」
あの時お父さんやお母さんとここで探して、そのうち一つだけ便利屋さんに支払った。 あの宝石と同じぐらい綺麗で同じぐらい大切な宝石が、陽の光を受けてキラキラと輝いている。







 

 


 

 

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