或いは彼女の逆説
例えばユウリと一緒に潜入するのが竜也じゃなくて、ドモンもしくはシオン、もしくは俺だっとしたら、 ユウリは自分の格好に疑問を持っただろうか。
持ったかもしれない。
ユウリがあの服装をすんなり受け入れたのは、竜也と組むことになって多少冷静さを欠いていたせいかもしれない。
ロンダーズの疑いがある怪しい新興宗教の教団に、竜也とユウリが潜入することになった。
この時代でかなり顔を知られている竜也は潜入するメンバーとしては適当ではない気もするが、今回は 竜也とユウリを一緒に行かせることにも意味があるらしいから仕方ない。
まあ2人とも変装するのだからなんとかなるだろう。検討を祈ろう。
すっかり他人事のような気分でいた俺は、竜也が調達してきた服を身に付け部屋から出てきたユウリを見て、ちょっとギョッとした。
もう少し無難な服はなかったんだろうか。
奇妙だというほど変なわけではない。この服を小学生ぐらいの女の子が着ているのであればそれほどおかしくはないのかもしれない。
だがユウリは小学生じゃない。
ユウリぐらいの年齢の女性の格好としては、一般的だとは言えない気がする。
だいたいそのメガネはどうしてそんなにでかいんだ。この時代で生活するようになって10か月。こんなメガネを目にした覚えはない。 こんなメガネをかけていたら、かえって目立ってしまうんじゃないだろうか。
「……いつものユウリには見えないな」
隣で呟いたドモンの声に力がなかったのは、俺と似たような感想を持ったからだろう。
ふだんのユウリとは随分感じが違うから、タイムレンジャーだとばれる心配はなさそうだが。
「ユウリさん、かわいいです〜!」
ドモンと俺の横を駆け抜けてシオンがユウリの隣に立った。
かわいいのか……? 俺にはあまりそうは思えないが、何を見てかわいいと思うかは主観の問題だから、 この格好を可愛いと思う奴もそりゃいるんだろう。
「これで髪も結んでみたらどうですか?」
シオンは既に手にゴムと櫛を持っていて、ユウリの髪をささっと梳かすと2つに分ける。 器用なものだ。
「あ、やっぱり似合いますよ!」
「そう?」
珍しく上目遣いに問い返すユウリに向かって、シオンが、はい!と何度も頷く。
次にシオンが言う台詞が想像できてしまったので、俺はソファーから立ち上がった。
「ね! かわいいですよね」
「そ、そうだな」
1人同意を求められたドモンが歯切れの悪い返事を返しているのを聞きながら、部屋を出る。
その拍子に部屋へ入ろうとしていた赤いチェックのジャケットとぶつかりそうになった。
「あ、ごめん」
竜也……。
おまえも随分強烈な格好してるな。
つい、無遠慮に全身を眺めてしまった。
「なんだよ」
竜也が、少し口を尖らせ気味に自信がなさそうな表情をするので可笑しくなる。
自信がないのは、自分の選んだ服装に対してなのか、ユウリと2人であの教団に潜入することに対してなのか。
まあ、あれだな。あんな怪しい宗教に金を貢ごうなんて気分の人たちは、他人の服装なんか目に入らない精神状態だったり するかもしれないしな。 そんな教団に入ろうとする2人はちょっとぐらい変わった服装してたほうがそれらしく見えるのかもしれない。
「いや……。」
そう考えれば、2人のこの格好を納得できないこともない。
「髪も少し変えたほうがいいんじゃないか。その髪型だと竜也だってわかる奴にはわかるだろ」
アドバイスしてみる。
「ああ、そうだよね」
竜也は真面目な顔で頷いた。
「あのメガネはちょっとなあ」
竜也とユウリが出かけた後で、ドモンがようやく2人の服装について本音をもらした。
「レンズがでかすぎるんだよな」
通常ドモンと意見が合うことは少ないが、今日ばかりは同意見だ。
「でも、メガネって可愛らしい女の子の必須アイテムなんですよ」
シオンだけは、ドモンや俺と意見が違う。
「ふだんはメガネをかけてるから、可愛いってことが周りの人たちにはわかってないんですよ。だけどメガネを取ると 実は凄く可愛らしい女の子なんです。 そういうお話、いくつも読みました。まさに今日のユウリさんみたいなんです」
いつも夜中まで起きていていろんなマンガやら何やら見ているシオンは、ある意味、俺たちの中で最もこの時代の文化に精通している。 分野によっては竜也以上に詳しいかもしれない。
「なるほど。竜也もユウリの素顔を他の奴らに見せたくなかったんだな。恋する男だよな」
そうか? 竜也という男がそこまで深く考えて行動するとも思えないが。
「ユウリもあれでよく見ると美人だから、心配になったんだな」
ドモンは、納得したように腕を組んで深く頷いた。
そう言えばユウリは客観的に見ると人目を引く美人なのだ。
過去には鳥羽さんも惚れたし、ロンダーズのストーカーもいたし、ドモンだって初対面の時点でユウリをナンパしようとしたんだっけ。
生活を共にして毎日顔を見ていると、ユウリが美人だなんてことはつい忘れてしまう。
今日のあのユウリを見てシオンが可愛いと思ったんだとしたら、メガネをかけさせたところであまり効果はない気もするが、 竜也が無意識のうちにユウリの素顔を他人に見せないようにしたってことはあり得るかもしれない。
「さすが恋愛中の男は鋭いな」
俺はドモンの肩を軽く叩いてみた。
結局竜也とユウリが潜入した教団の主催者はロンダーズで、 2人の連絡を受けて駆けつけた俺たちとシティガーディアンズとで無事逮捕できた。
そして役目を終えた竜也とユウリは、帰り道なぜかずっと言い争っている。
例えばユウリと一緒に潜入したのが竜也じゃなくて、ドモンもしくはシオン、もしくは俺だったら、潜入捜査は成功しただろうか。
たぶん成功しただろう。
相手が誰であれ、ユウリは仕事はきっちりやろうとするに違いない。
それじゃ、例えばユウリと一緒に潜入したのが竜也じゃなくて、ドモンもしくはシオン、もしくは俺だったら、 あんなふうにケンカする破目になっただろうか。
たぶんならなかっただろう。
何が原因か知らないが、あれはどう見ても痴話ゲンカだ。痴話ゲンカなんてものは多少なりとも気がある男女の間でやるものだ。
ましてユウリは、そうそう素直に自分の気持ちを示せないタイプだ。
あんなふうに言い争ってるのはかなりいい結果だと言っていいんじゃないか。
竜也とユウリに潜入捜査させるというドモンの計画はそう悪くなかったようだ。
あとは竜也の頑張り次第だろう。
まあ、あいつら今のままでも充分楽しそうだけどな。
どんどん遠ざかる2人の後ろ姿はなんだか微笑ましい。
まるでガキだな。
CF41「予言者を暴け」のあの日、こんな会話もしていたのです。
アヤセもドモンもシオンも、竜也とユウリをおちょくってるわけではありません。幸せを願ってます。…たぶん。