ボーダーライン
「私は殺したくない」
不意にその声は聞こえたのだ。
どこから聞こえるのか。ユウリは周りを見回した。
「誰か私を止めて!」
あそこだ! 声のする方を見上げるとライフルの銃口が光っている。 その瞬間ユウリは走り出していた。 詳しい状況なんてわからない。だが弾は既に飛び出していて、銃口の向く方向に1人の男性が立っていた。
「伏せて!!」
間に合わない!
ユウリは弾道に自分の身を投げだした。
止めてほしいと叫んだあの人を殺人犯にしてはいけない。
「ユウリ!」
同僚のケンが叫ぶ声が聞こえて、次の瞬間胸に重い衝撃を感じた。身体がドサッと地に路面に落ちた。
間に合った……。
確かに身体で弾を受けた。
「ユウリ、大丈夫か」
同僚のケンが駆け寄って来る。
「大丈夫。それより狙撃手を」
ライフルが見えた場所を指差すと、ケンは頷いて走り出す。
ユウリは胸を押さえながら起き上がった。今殺されかかったと思われる男性が呆然と立っていた。
「怪我は?」
ユウリの質問に男性ははっと我に返って、首を横に振った。
「僕はなにも怪我してません。それよりあなたこそ」
「私は防弾チョッキを着ているから大丈夫です」
胸が重く痛んでるので無傷だとは言えないが、打撲か悪くても肋骨が折れたぐらいだろう。
「インターシティ警察です」
ユウリはインターシティ警察のライセンスを見せた。
この日ユウリたちはまったく別の事件を追っていたのだった。相手が凶暴だということがわかっていたから防弾チョッキを身につけていたのが幸いした。 偶然狙撃現場に遭遇して弾丸の前に飛び込んだが肋骨にヒビ入っただけですんだ。
ケンが駆けつけた場所には既に人の姿はなかったが、残した痕跡から犯人が割り出されやがて逮捕された。狙撃手となった女性は利用されていただけだったことがわかった。もともと射撃の選手で、精神コントロールガスでコントロールされて無理に狙撃させられていたのだ。
ユウリはかつて20世紀で精神コントロールガスを使って自分を狙撃手に仕立てようとした男を思い出したが、今回の犯人はあの時の男ではない。卑劣なことをする人間が他にもいたということだ。
肋骨の痛みがなくなったころ、1人の女性が訪ねてきた。
「ありがとうございました。おかげで助かりました」
そう言って頭を下げる女性は優秀な射撃の腕があるから利用されたにすぎなかったが、あと一歩間違えば人の命を奪うところだった。
「あなたが叫んでくれたから。それがよかったんです。頑張って声をあげてくれたから気がつきました」
ユウリがそう声をかけると女性はやっと顔を上げた。今にも泣き出しそうな顔をしている。
この人が誰かを殺すことにならなくて本当によかったと思う。
たぶん、あの時の私と同じ叫びだから聞こえたのだ。
人を殺したくない。でも自分を止められない。
あの時の私と同じだった。助けを求めていた。
それがわかったから迷わずに飛び込めた。
あの時竜也が私にしてくれたのと同じことを今度は私がすることができた。
何をするべきかを教えてくれたのはあの日の竜也だ。
竜也。ありがとう。
心の中でそっと呟いた。
CF34オマージュ。