あなたを失くした初めての日

 

ドルネロと知り合ったのはあるパーティの会場だ。
リラはパーティに招待されていたわけではない。 なんとしてもいい男を見つけたくてパーティコンパニオンとして潜り込んでいたのだ。
まだ14歳だったから合法的には年齢制限に引っかかっていたのだけれど、そんなことは全然問題じゃない。 リラは地球人によく似た容貌だったが、地球人より大人びて見られることが多かった。 物心が付いた頃には既にこの星にいたので、なぜ自分が地球人でもないのに地球で暮らしているのかなんて知らない。 両親がいた頃の記憶なんて、もうとっくに忘れた。
パーティコンパニオンの仕事なんて好きじゃないが、前の男と別れたばかりでお金がなかった。
お金が足りなければ買い物ができない。だから仕方なく働いている。
仕事としては悪い話ではなかった。 支給されたロングドレスを着て立食パーティのお客の間を歩いて飲み物を配って歩けばいいだけだ。
会場で男にぶつかられた。持っていたジュースがドレスにかかった。
「なにするのよ!」
お客に向かって失礼な口を利いてはいけないと指導されていたが、気がついたときにはもう言葉が出ている。
「申し訳ない」
そう言ったのは、背の高さはリラと同じぐらいの小太りの異星人である。裏の世界では既に名前の知られている人物なのだが リラはそんなことはまったく知らない。
「しみになっちゃうじゃない」
「悪かった」
素早く札入れを取り出す。
「クリーニング代にしてくれ」
リラの両手がトレイで塞がっているのを見るとお札を四つにたたんで、リラのドレスの胸元に差し入れた。
「ちょっとなに……」
「ごめんな」
呆気に取られている間に男は去って行ってしまった。
「なんなのよ、あのおやじ……」
おやじと呼ぶのはまだ気の毒な若さなのだが、胸元にお札を入れるなんてことをするのはおやじしかいない。 セクハラだと訴えられても仕方ない行為だ。
でもなぜか嫌な気はしなかった。持っていたトレイを部屋の隅のテーブルの上に置き、胸元に挟まれたお札を抜き取った。
こういうの悪くないかも。
大勢の客の中にいるはずのその男を目で探したが、どこにいるのかはわからなかった。


その男と再び会ったのは路上である。
制服姿で歩いているリラの横に、空から一台の車が下りてきた。
「驚いたな」
運転席の窓が開いて声がした。
「本当の中学生なのか」
リラが振り返ると、あの顔があった。
「なによ、本当よ」
確かに本当の中学生なのである。30世紀の中学生も登下校は制服着用が義務付けられている。だけど学校なんて行ってない。 制服を着ているのは、この格好に惹かれて寄って来る金づるを期待してのことだ。
こいつ、もしかしたら金づるになるかもしれない。

送ると言われて車に乗ってバイトをしている理由を聞かれた。洋服がほしいからだと答えると、 その足で洋服を買いに連れて行ってくれた。そのまま買ったばかりの服に着替えて高層ビルの最上階の イタリアンレストランで食事した。
物凄く満足して、物凄く幸せな気分で、当然のようにドルネロの家へ行った。
外から見ると目立たない普通の家に見えたのに、中に入ったら物凄く派手でキラキラしている。
そしてベッドが大きい。
「うわぁ〜、ふわふわ」
ベッドの上に乗って子どものように弾んでみる。
洋服や靴やバッグを買ってもらったし、おいしいものを食べたし、ベッドはふわふわだし、なんてしあわせなんだろう。
そんなリラの様子を見てドルネロは微笑んでいる。
さて、と。 これまでにリラはずいぶんいろんな異星人を見てきたけれどドルネロのような風貌の異星人は初めて見たので、 どんなセックスをすれば喜ぶのか見当がつかない。しかしこんなにいい思いをさせてくれたのだから、 当然自分と寝ることを目当てにしているのだろう。これまでに出会った男はみんなそうだった。
とりあえず服は脱ぐでしょ。
買ってもらった洋服のボタンを自分で外しはじめた。
「なにやってるんだ」
「なにって。あんたが脱がせたい?」
女には黙って横になっていてほしいタイプだったのかしら。
「おまえと寝る気はない」
リラは、きょとん、とする。年のわりに経験を積んでるつもりだけれど地球人に似たタイプしか相手にしたことがない。 ドルネロはかなり変わった見た目の異星人だからリラの想像もつかないような方法じゃないと喜べないのかもしれない。
「寝ないでセックスするの?」
純粋に疑問を口にしてみる。
「は?」
呆れた顔をされる。
「服を着ろ」
脱いだ上着を手渡されて、ようやくドルネロにその気がないらしいということがわかった
「じゃあ、なんのために洋服買ったり、バッグ買ったり、おいしいもの食べさせたりしたのよ」
「綺麗な女に綺麗な格好をさせたいだけだ」
「ふーん、ほんとうはあっちのほうは全然ダメなんじゃないの」
わざと酷いことを言ってみたが、ドルネロは怒るわけでもなく穏やかな表情のままだ。
「おまえがもっと大きくなったらその時はお願いしよう」
「ふーん」
なんだかよくわからないが、何もしなくてそれでいろいろなものを買ってもらえるならそのほうがいい。




「ドルネロ、お金抜きでもちょっとは好きだったわよ」
呟いてみれば、少しだけ感傷的な気分になる。
まったく変なところで情に脆いんだから。これまで何度も危ない場面をくぐり抜けてきた 殺しても死にそうにない奴だったのに。こんなところで命を落とすなんて。
14の歳から、くっ付いたり離れたりしながら、なんだかんだでこれまでずっと一緒にいた。21世紀にも一緒に来た。長い間最も身近な存在だった。
だけど、もう思い出すことはないだろう。
過ぎ去った日々や、死んでしまった男を懐かしむような暇は無い。
地球人の姿になったゼニットが運転する車に乗り込み、鏡を取り出す。
ピンクの髪が輝いている。
私は今日も美しい。




 

 


1作目がドルネロとリラの話ってのはどうなんでしょう。
これはもうずいぶん前に青髭さんの「第24代」に差し上げた『ビューティフル・デイズ』という話が元になっています。殆どまんまです。
そっちは「リラが現代の女子高生でドルネロが現代の青年実業家だったら」という驚きのパラレル設定です(笑)。
今回のリラが学校の制服を着ているのはその名残です。

 

 

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