君は誰のための女神?
お見合いをするのは初めてなので、 私たちのその後のお付き合いの仕方が一般的なものかどうかは知らない。
考えたこともなかった。
「それで、プロポーズの言葉は何だったの?」
そう聞かれて初めて考えてみる。
「特にそういう言葉はないわ」
「なかったの?!」
激しく驚かれてしまったので、逆にこっちが驚く。
「じゃあ、告白もされてないの?」
「告白?」
「好きです、とか」
そんなことは言われたことがない。黙って頷いたら、呆れた顔で溜息をつかれた。
実際会う前に目にした写真の人は、口を真っ直ぐに結んでいて。 凛々しいという言葉がぴったりだった。
私はこの人と結婚するかもしれないと思った。
実際に会って言葉を交わしたその人は、写真以上に凛々しくて優しくて。
私はこの人と結婚するのだと確信した。
それは勘のようなものだ。
この人は私と一生を共にする人だ。
全然根拠はないんだけど、そう感じた。
「まあ、それも奈美江ちゃんらしいわね」
小学校からの友人である彼女は、納得したような諦めたような顔で頷く。
「結婚式の日取りは決まってるんでしょう?」
「それは決まってるわ」
今日初めてまともな答えを返せた。
浅見渡という人のことを殆ど知らない。
家を離れて自分で会社を経営していたのだけど、去年その会社を畳んで家へ戻ったことは聞いた。
浅見グループの仕事を始めたばかりの彼は毎日とても忙しくて、会う約束をしていても会えないことはよくある。
たまに会っても結婚式や新しい生活の打ち合わせで終わってしまうことも多いけれど、 少しの時間でも会えるのが嬉しい。
プロポーズの言葉なんて別にいらないし、好きだなんて言われなくてもいい。
言葉にしてもらえなくたって私の気持ちは変わらない。
だけど言ってくれたら嬉しいかもしれない。
いつものように家の前まで車で送ってもらった。
いつもは自分でドアを開けてすぐに降りるのだけれど、ぼうっとしてたらいつの間にか彼が助手席のドアを開けてくれていた。
「疲れた?」
彼はいつも穏やかで優しい。
疲れているとしたら私より彼のほうだろうと思う。 新しい仕事に就いたばかりで忙しいのに、わざわざ時間を割いて会ってくれる。
「いいえ、疲れていません」
私は首を横に振って車から降りた。
考えてみたら私も彼に、好きだとか結婚したいとか、そんな言葉を言ったことがない。
「あの」
顔を上げて彼を見る。
この気持ちを正直に伝えたら、彼は嬉しい気持ちになってくれるだろうか。
「あの、私……」
「……?」
「渡さんのことが好きです!」
言葉にして初めてこの言葉がごく自然な自分の気持ちだということに気づく。
なんだか嬉しい。
気持ちを言葉で伝えるって、幸せなことなんだ。
私は満足していたのだけれど、気が付けば彼は目を丸くしていた。
ちょっと、唐突だったかしら。
言うべき時とか場所とか間違えてしまったかしら。
驚いているらしい彼を前にどうしたらいいかわからない。
「ごめんなさい。私……」
その瞬間、彼が笑顔になった。
「驚いたな」
言いながら笑ってる。
素敵。
こんな笑顔の彼を初めて見る。
人を幸せにする笑顔だ
ふいに両肩を大きな手でつかまれた。
力強い大きな手。
人を幸せにする手だ。
この人になら付いていける。
やっぱり大好きだわ。
肩をつかまれたままぼんやり顔を見上げていた。
だから…。
そのあと下りてきた柔らかいものが彼の唇だということに、私は暫く気がつかなかった。
すみません(汗)。
本編では渡さんが笑ってるシーンは殆どありませんでしたが、演じてる岡本さんは爽やかな笑顔の青年役も多い方なので。
笑ってもらいたかったのです。