真実なんてものは時に
「リラって言葉にはどんな意味があるか知ってる?」
華やかなピンク色の髪を弄りながら自分の名を名乗ったその少女は含みのある笑顔を見せた。
「花の名前じゃねえのか」
そう言ったものの、花に興味を持ったことはないからそれがどんな花なのかはまったく知らなかった。
「違うわよ」
リラはツンと鼻を上げて得意そうに笑った。
「お金の名前なの。ずっと昔のお金の名前なんだって」
ああ、そう言えば1000年も前の通貨の単位にそんなのがあったと聞いたような気がする。
「そいつはいい名前だな」
「そうでしょ」
この少女に名前を付けたのは彼女の親なのかそれとも他の誰かなのか知らないが、大昔の通貨の名前をわざわざ付けたとは思えない。 おそらくは綺麗な花の名前を付けたのだろう。
それなのにこの少女は、自分の名前が花より金と同じだったほうが嬉しいのか。 年齢にしたら13か14でしかなさそうな、まだほんの子どもに過ぎないこの少女はこれまでいったい どんな人生を歩いてきたんだろうか。
「何が可笑しいのよ」
いつの間にか顔に笑みが浮かんでいたらしく、リラがこっちを見て睨んでいた。
「いや、奇遇だと思ってな。俺の名前も昔の金の単位と同じなんだ」
「えー!」
「まあ正確には名前の前半分だ。ドルネロのドルというのが金の名前だ」
「そうなの?! じゃあネロって何?」
「さあな」
「寝ろ、ってことじゃない? ドルと寝ろ!って凄い名前。お金しかないって感じ!」
そう言ってリラは高い声でケラケラと笑った。
「そうかもしれねえな」
自分の名前がどんな意図で付けられたのかなんて知らない。
それどころかその名前を付けたのが誰なのかも知らないし父親の顔も知らない。
母はヒューマノイド型の美人だったが、ドルネロはおそらく異星人である父親に似たのだろう。 母とは似ても似つかぬ風貌に生れ落ちた。
ドルネロには母に疎まれ罵倒された記憶はあるが、愛された記憶はない。 母にとって自分は望まない子どもであり、父と時間を共にした日々は思い出したくない過去だったに違いない。 息子に父のことも、ドルネロという名前の言われも、何も語らずに死んだ。
ドルというのは1000年前の世界でもっとも強かった通貨なのだとドルネロに教えてくれたのは若い頃にストリートで知り合ったインテリのギャングだ。「いい名前だ」とその男は言った。
もともとこの名前がどんな意図を持って付けられたのかどうかなんてどうでもいい。 今となってみれば、金と寝るなんていかにも俺らしい名前だとドルネロは思う。
「あたしたち、気が合いそうね」
リラが上目遣いで腕を絡ませてきた。 下心がありそうな笑顔だ。
「そうだな。じゃあ記念に何か買ってやろうか」
「ほんとにぃ!」
リラは今までとは違って本当に嬉しそうに満面の笑みを見せた。 物を買ってやると言われた時に一番いい顔をする。このわかりやすさがいっそ潔くて、見てるこっちもつい笑ってしまう。 この子の名前の花はきっと華やかな花なんだろう。
「うれしい!」
リラがドルネロの手を取って飛び跳ねると、ピンク色の豊かな髪がふわりと跳ねた。
綺麗な髪をしている。
とっくに死んだ母親の長い髪を思い出した。