Happy birthday dear
自分の家に帰るのに特に警戒はしてない。それほど俺の毎日は単調で平穏だ。
だがそれは今に始まったことではない。常にロンダーズに狙われる危険があった20世紀のトゥモローリサーチにあってさえ 帰宅する時に警戒も緊張もしてなかったのだから。
今の俺にとって緩んだ気分のまま帰宅するのはいたって自然なことなんだ。
だから家に入ったとたん激しい爆竹の音に迎えられて、つい耳を塞いだのも
「お誕生日おめでとうございます!!!」
「おー!」
「おめでとう」
「さあ! ケーキ食べるぞ!」
「ちゃんとイチゴがのってるケーキにしましたから」
「……」
ノリがいいんだか悪いんだかわからない微妙な騒々しさにあっけにとられて呆けたように立ち竦んでしまったのも、 俺にとっては当然のリアクションなんだ。
「おまえら、人の家に勝手に入って何やってんだ」
すっかり忘れてたが、今日は俺の誕生日だった。
「そりゃサプライズってのはそういうもんだからよ、な、なあ」
俺と目が合って一瞬目を逸らしたドモンが、小さくため息を吐いてから視線を戻して俺を睨んだ。
「アヤセ、勝手に入ってごめんなさい。もう、だから私は嫌だって」
ふだんちょっと会うにも時間がとれないほど多忙なユウリが、困ったように眉を顰めた。
「シオン……」
思えば俺は自分の誕生日なんて誰かに言った覚えはなかったのだ。 だがシオンは20世紀で俺が運転免許を取るための書類をいろいろ偽造したから、それを覚えていた。
とはいえもう31世紀に帰って何年もたつし、その間シオンは他の星に行ってたこともあり、 このごろは誕生日を祝うとかどうとかすることもなかった。
どうして今になって突然こんなことを。
だいたいなんで家の鍵をあけられたのかというと、それはシオンの仕業に違いないわけで。
「すみません」
シオンはしおらしく目を伏せた。
「でもアヤセさん、今年は30歳ですから。キリがいいですし」
30歳。 そう言えばそうだったな。去年はドモンが30になるからって、むりやり召集されたんだっけ。 それなのに自分の誕生日は忘れてた。
30だって29だって別に変わらない。単に時間が流れてるだけだ。
だけど。
「おまえら、暇なんだな」
馬鹿らしくてつい笑ってしまう。
「はあー。暇じゃねえよ。わざわざ時間を割いて来てやってるんじゃねえかよ」
毒づいてるドモンを無視して、ケーキの上の苺を1つ摘んだ。
「ああ! 待ってください。今ロウソク付けますから」
「ユウリ、忙しいんじゃないのか。悪かったな」
「別に……。いつもいつも忙しいわけじゃないのよ」
30歳。 自分がそんな年齢になるなんて考えたことはなかった。
こいつらと知り合った頃はもちろん、オシリスが再発する可能性は少ないと言われてる今だって将来が保障されてるなんて思ったことはない。
30年も生きられたこと自体が貴重なことなのかもしれないと思う。
律儀に30本のロウソクを付けようとしてるシオンの脇から苺をまた1つ摘んでみる。
「待ってくださいよー」
俺が30だってことは、竜也も今年30歳になるんだな。
竜也、おまえはどんなふうに生きてるんだ。
「はい、できました!」
ロウソクを付け終えて嬉しそうにシオンが頭を上げた。まったくこいつにはかなわない。
「それじゃ、アヤセさん、お願いします!」
俺はロウソクを吹き消す代わりに、シオンの髪をクシャクシャとかき回してみた。
短いSSですが、書くのが久しぶりすぎて超不安。アヤセ30歳の誕生日記念です。